最近では士業領域はAIに取って代わられると予言されていますが、2014年09月という遥か昔からその仕事に取り組んでいるスタートアップがあります。商標登録AIのToreru(トレル)を運営する宮崎国際特許事務所の宮崎さんに話を聞いてきました。
宮崎 超史
神戸大学海事科学部 海洋電子機械工学科卒業、神戸大学大学院海事科学研究科 マリンエンジニアリング専攻卒業。トヨタ自動車株式会社 入社ののち、宮崎国際特許事務所(旧ブナ国際特許事務所 江坂オフィス)入所。2014年9月Toreru(トレル)をリリース。
2015年に野村総合研究所は、日本の労働人口の約半分、49%が人工知能やロボットに置き換えられるとの予測を行った。国家資格が必要とされるような士業もその例外ではない。
だが2014年に先駆けてそんな時代を感じさせるサービスを開発した人がいる。商標登録AIのToreru(トレル)を運営する宮崎さんだ。
クラウド上で商標登録をするサービスを運営しています。Amazonのようにクリックだけで申請できて費用は、だいたいの案件で半額で済みます。というのも、商標登録業務の書類作成の9割以上を自動化したからです。結果として作業量従来比で約1/10になりました。
Toreruの利用フローはこうだ。相談は無料となっている。通常商標を取れるかどうかのサーチ(商標出願前調査)には費用がかかるものだが、そこがかからない。
利用を開始してからも、フォームに入力して、クラウド上で進捗を確認するだけ。驚くほど簡単だ。
2014年のサービス開始以降、好調に業績を伸ばし利用数も1500を数える。
どういうサービスなのか詳しく聞いていこう。
サービスの仕組みはこうだ。調査から始まる。
商標取得費用は、ほとんどが人件費です。その費用を削減するために徹底的に無駄を改善するシステムを作りました。
まず「商標調査」と言って類似商標がないかなど事前にその商標がちゃんと登録できるのかを調査します。ほとんどの場合、弁理士はJ-PlatPatという特許庁の商標検索サービスを使って調査します。しかし、効率的に調査するためのものではありません。
そこで半自動の調査システムを開発しました。調査をしていると報告書まで自然と出来上がる仕組みにし、調査から報告作成までの業務時間を約10分の1以下に削減できました。
そのサービスの一部は「無料の商標検索トレルサーチ」としてWeb上に公開されている。
出願段階になると、もう一工夫されている。
商標出願する際には、出願書類を作成するために必要情報をかき集めてwordで作って申請していましたが、トレルでは、お客様の出願申込み内容を元に出願書類が自動作成されます。ほんの一瞬で完了します。この情報を使って請求書発行の業務についても、システムにより一瞬で作成され、お客様にお送りします。
フォームに一通りの情報を顧客に入力してもらいそれを元に出願書類が生成されるだけのことだが、今までのメールや申請書類の数々からおさらばできるだけでも画期的だ。
価値の低いコピペ事務作業やJ-PlatPatでの調査など効率の悪い作業などを全て見直し、徹底的に自動化したおかげで、弁理士として本当に価値のある専門的業務である、指定商品・指定役務のヒアリング、類否判断に集中することができる仕組みになっています。
こうして手続き業務の90%を省力化している。とはいえ、最終的には弁理士がチェックをしており品質が下がることはないとのこと。しかし、AIと謳っているだけに「どの部分がAIなのか」と意地悪な質問をしてみた。
ディープラーニングを画像商標の検索につかっています。画像商標とは形のこと。似たロゴやキャラクターがないかを探す時につかいます。これで似ている候補を絞り込むことができるのでかなりの省力化につながります。
もうひとつはgoogleのVisonAPIをつかっています。登録証という特許庁が発行する特許類の認可書類があるんですが、これが紙で来るんです。これをOCRして「登録しましたよー」という依頼主さんへの登録報告書を自動で作っています。
登録証明書とはこれのこと。いままでは手で入力して報告書類を作成していた。
まさに合理的なAIの使い方と言えるだろう。
かなりニッチなサービスに思えるのだが、なぜこんなサービスをつくったのか。
それは親が弁理士で、宮崎国際特許事務所という事務所を経営しているからですね。しかもちょっとイケてなかった。なんかしないと…と焦って「めっちゃ安い商標登録サービスがあればいい」となったのがきっかけです。
実際の特許事務所がやっているWebサービスは珍しいのではないだろうか。
サービス開発についても面白いエピソードがある。
事業なんかよりコーディングのほうが好きで、今は手書き生成のAIを作ったりしてしまうほどですけど、そもそもWeb開発とかやったことなくて。
知り合いに手が空いている人がいたので捕まえて、0からRailsから学んで、1年で作りました。そもそも画像表示できないというところから。詳しい人に聞いたりはしてましたが、サーバーとまったのも1回や2回ではありません。
今や宮崎さんは講師としてディープラーニングを人に教えるほどの技術者だ。
そんな人がAIともなると想像がつかないが、苦労はしなかったのだろうか。
AIどころか素人だからこそ、できないとか限界とかなくて。ディープラーニングも0から学んで数学もゼロからなら、弁理士もゼロからです。そんな中でも心が折れなかったのはかっこよく言うと「作るものが見えているから」。
現実的には「補助金の納期があったから」そして「実家が潰れちゃうから」ですかね(笑)
超現実的。「家業がヤバい」からAIも学べたというわけだ。
実績はどうか。
結果として商標出願受注件数が全国でTop10に入りました。西日本で一番の数字です。クチコミのみですからありがたい限りです。あとはOpen Network Labのデモデイで最優秀賞を獲得しました。
西日本1位、全国10位の出願数を口コミだけで達成するだけではない。
Open Network Lab 14th Demodayでは急な都合でキャンセルしなければらならなくなったホテルの宿泊権を売買できるサービスCansell(キャンセル)と共に最優秀賞となった。
今後はどうなっていくのか。
今は、宮崎国際特許事務所のマーケティング装置に過ぎませんでした。今ようやく、次のステップのプラットフォームになろうと考えています。
サービスの中身も今は自動化がメインになっていますが、今後はクラウドソーシングとのミックスをしていきます。なぜならサービスでは最終的に弁理士が活躍するのですが、労働集約型でスケールする際のネックになります。それこそラクスルさんの工場みたいに空きのところをつなぐイメージを計画しています。AIも現在は類似商標のチェックは機械だけではしにくいので、教師データをためながらより高度なAIを作りたいですね。
AIと人を共存させていきます。
AIと人を共存させるアプローチで新たな知的財産ビジネスを目指す計画だ。
おしん記者
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