スーツに代わる現今の和服「和の衣 折衷」 工業デザイナーが「きもの」のカタチを見直す

こんにちは。Startup Times編集部の大久保です。

突然ですが、わたしは平日の8割くらいは着物で会社に出社をしています。
この格好のままスタートアップの方にお会いすると「私も着物、着てみたいんです!どうすれば着られるようになりますか?」と結構真剣に尋ねられます。ただ、着付けや値段のハードルが高くなかなか一歩踏み出すには至らないようです。

今回は、そんな方にもぴったりな新しい和服「和の衣」を手掛けている戸田光祐さんにお話を伺いました。

戸田光祐さん
平成元年生まれ。沼津工業高等学校、東京工芸大学卒業。

〔 賞 歴 〕
2016 飛騨木工連合会 飛騨の家具アワード 優秀賞 受賞
2015 公益財団法人日本デザイン振興会 2015年度グッドデザイン賞 受賞
2014 富士吉田地域デザインコンペティション プロダクト部門 優秀賞 受賞
2014 MUJI AWARD 04 審査員推薦 受賞
2014 戸田市社会福祉事業団 マスコットキャラクターコンペティション 採用
2013 公益財団法人日本デザイン振興会 2013年度グッドデザイン賞 受賞
2011 東京工芸大学芸術学部卒業制作展2011 ヒューマンプロダクトコース賞 受賞
他多数受賞

CAMPFIREでクラウドファディングを行なっている。多くの共感を呼び、開始から1ヶ月も経たずに目標金額に達成した。

商談はスーツじゃないといけないのか?

おおくぼ
工業製品のプロダクトデザインをなさっている戸田さんが、今回「和の衣 折衷」を手掛ける理由を教えてください。
戸田さん
仕事柄、伝統工芸の職人さんと一緒にお仕事をすることがあります。みなさん「和」の文化・継承に対してとても意欲的に活動されてますが、商談や展示会にはスーツでいらっしゃる方が多いんですよね。
おおくぼ
たしかに!僕も着物屋さんやイベントに行くことが多いですが、スーツで着物を勧めてくる方も多いです(笑)
戸田さん
本当は着たいと思っているはずなのに着ていない。もしかしたら、価格や活動性、そして着物は「着付ができなければ」というハードルがあるからなのでは、という仮説を立てました。
戸田さん
そこで、「仕事着」としてスーツの代わりに着ることができる和服を作れないかと考えました。着物らしさを大切にしながら、現代で着やすいようにかたちを変え、試作を制作。伝統に携わる方々もいらっしゃる展示会でそれを着ていたら、漆器を扱う方に「どこで手に入れたんですか?」と言っていただけました。このときに、潜在的なニーズがあると確信しました。

長着を無くし、襦袢が表の衣服へ仕立てられた革新的な和服。

帯を結ぶという行為に抵抗があるのではないかという考察から、現在最も標準的であるベルトによる着用を採用している。

おおくぼ
自分がターゲットのいる場所で着てみて反応を見るとは、素晴らしい価値検証の方法ですね!その後はどの様に作り上げていったのですか。
戸田さん
Facebookに構想と想いを投稿していたところ、知人の職人さんが「購入したい」とご連絡を下さいました。まだ物が出来上がっていないことをお伝えすると、それでも良いと言っていただき、急遽製作をしました。とても偶然ですが、私が170cmでこの方が180cm。その後もお一方漆器を扱う190cmの方にもご購入頂くことができ、膨らみがちな試作費は最小限に抑えることができました。最初のお客様には喜んでいただき、パリでもご着用いただけました。本当に感謝しています。

歴史から導いたこれからの和服


おおくぼ
現代で着やすい「着物」とのことですが、どのような特徴があるのでしょうか
戸田さん
長着をなくしたことが大きな特徴です。着物と言えば長着ですが、お手洗いが不便であったり、歩行が容易ではなかったりと和服離れの要因なのではないかと思いました。例えば、普段何気なく使っている多くの「階段」は洋服に最適化された幅・高さで設計されているので、長着だと上り下りしにくい。だから、長着を無くして、着物の肌着である「襦袢」を表に出る衣服として仕立て直しました。
おおくぼ
肌着を外に出しちゃうんですか
戸田さん
はい。実は衣服の歴史を振り返ると、中に着ているものが外に出ていくという変化は、自然な流れだと分かりました。例えば十二単では下着であった小袖が、江戸時代には正装として表に出て来ています。洋服でも、もともとTシャツは下着でしたが、今はそれで町を歩けますよね。
おおくぼ
結構大胆だと感じましたが、自然な流れなのですね。
戸田さん
着物は歴史的に見れば時代ごとに多様に変化して来ましたが、明治・大正頃に洋服が一般に浸透してきた時に、衣服としての進化が止まってしまった。その後は「残すもの」「守るもの」として扱われるようになってしまっていることが良くないと思っています。
おおくぼ
着物をきていると、突然、知らない人に街中で「お直し」されたり、場合によっては「場にふさわしい格ではない!」と怒られたりするという話を聞きますもんね。
戸田さん
「掟」が多いですよね。このままでは日本の民族衣装とは胸を張って言えなくなってしまう。だからこそ、手掛けるべきなのは「柄」や「素材」を変えたものではなくて、新しい「型」なのだと思っています。「和の衣 折衷」は、着付けを学ばなくても、ほとんどの人が直感的に着られるよう配慮しました。

人形を応用した切れ目によって、リュックサックも背負いやすい。

おおくぼ
「折衷」という名前には、どのような意味が込められているのですか?
戸田さん
もともと着物はいつの時代も「折衷」をしてきたのではないかという考えからつけました。日本の服装の歴史を辿ると、隣国の文化を積極的に吸収し、独自の解釈を加えながらそのとき、そのときの着物が生まれています。完全に置き換えるのではなく、日本的な感性を受け継ぎながら。だからこそ、今この時代にも新たな型があるはずです。
おおくぼ
和モチーフの衣服ブランドもありますよね。それらと異なる点はありますか?
戸田さん
「折衷」が異なるのは「仕事場で着られる衣服」という点です。お洒落として着られる和を意識したブランドはありますが、飽く迄私服でスーツと並んで違和感のないものは存じ上げません。7日間のうちほとんどの方が5日間仕事をしていると考えると、仕事で和服をお召頂くことはとても価値のあることだと思っています。また、洋服に着物の要素を取り入れるのではなく、現今の和服を生み出そうとする覚悟を持っている点は大きく異なるところだと思っています。

日本の景観を美しく


おおくぼ
戸田さんは「和の衣」で何を目指していますか
戸田さん
今回はスーツに代わる仕事着を手掛けましたが、最終的には和服が普段着として一般化することを目指しています。思想の自由があるので、全ての日本人に和服を!とは言いませんが、過半数の人が自然に普段着として取り入れられる社会にしていけたらと思います。
おおくぼ
そうなると、だいぶ景色が変わりますね!
戸田さん
手掛けた原点の一つに、「日本の景観を美しくしたい」という想いがありました。衣服は建築同様に、景観にとても影響力を与えるものですので、私自身は個人の所有物というよりも、個人が所有する公共物、という考えが根底にあります。その為、個人の表現というよりもこの国の景観として相応しいかどうか、という視点を大切にしています。だからこそ、来年かたちが大きく変わるような衣服はつくりません。「和の衣」は、流行ではなく景観を手掛けていきます。

(大久保慧悟/Startup Times編集部)

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