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インタビュー 2019.12.11

ポートフォリオを変え続けた「formrun」創業者の物語

ウェブサイト上のお問い合わせやお申込みなどにフォーム作成管理サービス「formrun(フォームラン)」を導入している企業も多いのではないだろうか。

「formrun」は、2016年にmixtape合同会社が開発したフォームに特化したクラウドサービスで、サービスロンチの初年度で3000弱のユーザー数を獲得し、産業経済誌やIT専門誌など多くの媒体に記事化されるなど注目を集めた。その後、2017年に株式会社ベーシックへ事業譲渡されるものの、今もなお多くの人に愛されているサービスだ。

そんな「formrun」の共同創業者である 堀辺 憲 氏にインタビューをすることができた。どんな経緯で「formrun」を開発したのだろうか。また、今後考えている展望について詳しくお聞きした。

インタビュイー

堀辺 憲

株式会社クボタ、住友スリーエム株式会社(現 3M Japan)でセールス、マーケティングコミュニケーションに携わり、2012年に株式会社ディー・エヌ・エーで企業広報をはじめ社内報のリブランディングなどに従事。以降、スタートアップの広報部門の立ち上げやPRマネジメントに携わる。2016年1月にmixtape合同会社を共同創業し、フォーム作成管理ツール「formrun(フォームラン)」を開発。2017年5月、noco株式会社を設立、代表取締役に就任。チームを強くするをコンセプトにしたマニュアル&プロセス管理ツール「toaster(トースター)」の開発やPR・広報支援サービス「PR Studio」を立ち上げる。

エピソード①~新卒時代~

formrun共同創業者の堀辺氏は新卒時代からどのようなキャリアを歩んできたのだろうか。

1996年に新卒として大阪に本社がある株式会社クボタに入社しました。

クボタでは、住宅機材事業本部という部門で戸建て住宅の屋根材や外装材のルートセールスを担当させていただきました。父親が不動産業を創業した背景もあり、不動産や建築業界に対しての嗜好性が高かったことや、幼少期に読んだ「カラスのパンやさん」の影響を受けて、ものづくりの素晴らしさや憧れを抱いていたこともあり、メーカーのセールスは当時天職そのものでした。

しかし、ジョブローテーション制度により他部門への異動や事業部の他社との合弁などの背景があり、同社で建築関連の業務に携わることが出来なくなってしまいました。そこで、はじめて転職という選択肢を決意したのです。

エピソード②~転職、そして3Mへ~

とはいえ、今とは全く状況も違って当時は転職することに対して偏見に満ちた時代。正直、お世話になった人たちや周囲に理解を頂くのはとても大変でした。

そんな折、出会ったのが外資系の化学メーカー、住友スリーエム社(3M Japan)。コンストラクションマーケット事業部で主に複合ビルや商業施設に利用される内装用の塩ビ化粧フィルムやガラス飛散防止フィルムのスペックインセールスを担当しました。今でもビルの工事現場のそばを通ると「建築計画のお知らせ」看板をチェックしてしまいす(笑)

お客様や同僚に恵まれて2年連続で優秀販売員を獲得するなどセールスの業績も順調でしたが、ある時、10年近くもセールスを続けているがこのままでいいのだろうかと、P&GやJ&Jなどと並んだマーケティングのエクセレントカンパニーと言われる企業に身を置きながら、顧客を創る、マーケティングを知らなくてよいのだろうかと。これに気づいた時、ただ先知れぬキャリアへの不安と焦燥感にかられました。

そんな折、社内のイントラネットで広報部門の募集を偶然見つけて、今ここで応募しなければ次のチャンスはない!と直感を覚え、社内FA制度を通じて、運良くマーケティングの機会を得ることが出来ました。

エピソード③~広報との出会い~

広報部での時間と経験は新しい発見の連続でした。

私たちが普段、テレビやラジオ、新聞、雑誌から得ている情報の多くが、企業や組織の広報担当者ないし広報機能から記者や編集者、ジャーナリストに情報を提供し、その情報を起点に媒体の先にいる読者や視聴者に発信されているものだと知らなかったのです。

広告や宣伝のように特定の枠を購入して企業からメッセージを届ける活動と異なり、広報は情報をメディアにお届けし、メディアの皆さんがそれに価値を感じて下されば、記事化というメディア露出につながり、媒体を見たり読んだりした読者や視聴者の方々がその情報を得るのと同時に「他人ごと」から「自分ごと」への行動変容につながる。ファクトを伝えることに加え、社会の空気を醸成する役割も果たすのだなと気付きました。認知の最大化から実際に製品やサービスなどを手にするといった行動変容が怒り、その企業や商品に対するブランドを形成していくと理解しました。

目に見えないもの、数字だけで語れないもの、そしてアンコントローラブルなもの。だから定量以上に定性的な感覚や視野が必要であり、クリエティビティも求められる広報という役割はチャレンジングそのものでした。

エピソード④~DeNAとの出会い、そして起業へ~

外資化学メーカーで広報業務を深めながら、次にキャリアのご縁を頂いたのはDeNAでした。幼少期からゲームやデジタルデバイスが好きで、BASIC言語でゲームを作るなど造詣が深かったのも理由のひとつでしたが、これからの時代、当たり前のように手のひらサイズのデバイスで情報を受け取って、個人から情報発信をするのが当たり前になると思い、そのためにはWebやITに精通する必要性があると感じていたことも大きかったですね。

DeNAではコーポレート・コミュニケーション、企業広報を中心に担当しました。新コーポレートブランドの発表、メッセージングアプリや音楽サービスのリリース発表会、DeNAランニングクラブ(陸上部)の発足、危機管理の広報対応など。毎日が光陰矢の如しなほど目まぐるしい変化と意思決定のスピードに驚き以上に、エキサイティングな環境でした。そのうえ、新卒社員の殆どが起業を宣言するほど社員の起業家精神が高い企業でした。サラリーマン道を歩んでいた自分からすると当時「起業」って何ですか?と全く無縁の単語でしたが、DeNAにいると自分自身の甚だ勘違いも加速しまして、ひょっとすると自分も起業できるのではないかと思うようになりました。

起業するといってもセールス&マーケティングしか知らない私でしたから、とりあえずファナインスやリーガルをはじめ、起業に必要なエッセンスは少数精鋭のスタートアップの環境下であればナレッジの機会を自ら得やすいのではと考え、複数社のスタートアップでお世話になりました。そこで、一緒に起業しないかと声をかけられたのが、のちの「formrun」の開発者の多田でした。彼となら想起しているアイディアを形にできるかもしれないなと、その場で「やろうと」即答し、起業を決意しました。

エピソード⑤~副業起業~

しかし「起業」は何かを実現する手段にしか過ぎず、共同創業者の多田と元同僚のデザイナーの松本と3人で毎晩、六本木や恵比寿のカフェで事業アイディアの壁打ちを続けました。それと同時に起業の段階で考えたのは「誰かに言われて作るのではなく、自分たちが本当に心から作りたいものを創ろう」ということ。アイディアの選択肢と可能性の柔軟性を担保するため、まずは自己資本金だけで経営してみようという話になりました。

しかし、資本金はわずか60万円。自己資本金のみという選択肢で得た手前の自由を得た代償として、使えるお金に限りがあり、そもそも食べていけないという現実でした。そこで一旦、会社にキャッシュインをすることで手元資金を潤沢にしながら、生活費は各々で稼ごうと。つまり、当時はまだ事例がないパラレルキャリアでも特殊な「副業起業」という形態ではじめたんですね。

日中は各々が所属している企業で働き、夜や週末・祝祭日はプロダクトの開発。週に一度、フェイス・トゥ・フェイスで行うミーティングでは終電までカフェで打ち合わせるのは当たり前、平均睡眠時間も3時間ほどでした。

振り返るとなかなかタフな環境だったと思うのですが、モチベーションとフィジカルを保つことができたことの大きな要因は、そもそも誰かにやらされているものではないということなんですよね。単純に楽しいから、結果として時間が過ぎ去っていったというのが正しいのでしょう。RPGゲームでいうところの経験値を稼いでいる時やプラモデルを作っている時の夢中で我と時間を忘れているのに近しいかもしれませんね。自らやりたいこと挑戦したいということに気持ちが重なるから、ワクワクする、夢中になれる。近視眼的に何かしらの対価を期待したり、思惑を挟んでしまっていたらきっと心が折れていたと思います。常に自分の視界のその先に広がっている、まだ見ぬ未来や大地を想像することにしていました。もちろん言葉どおり、かんたんなことではなかったですけれどね。

エピソード⑥~結実~

起業して作り上げたフォーム作成管理サービス「formrun」は2016年12月に正式版をリリース。さまざまなメディアに取り上げて頂いた影響もあり、ロンチ後わずか1年で2700を超えるユーザーが利用するサービスとなりました。一方で、フォームというサービスの性質上、セキュリティ対策への投資や監視体制、充実したカスタマーサポート体制の必要性など、ユーザーが増えれば増えるほど、現状の体制以上に投資が必要と感じていました。

また、ベータ版から振り返ると起業から1年半を迎えるタイミングで、あたらしいサービスを開発したいという話もチームメンバーの中から話もあり、「formrun」を私たち3名による開発・運営のステージから、経営としての大きな意思決を求められるフェイズをむかえました。それが事業売却という選択肢でした。

エピソード⑦~スタートアップが直面するPRの課題~

事業売却の方向がチームのなかで決まるのと同時に、私のなかではまだまだ新しいサービスや事業を立ち上げたいという思いがあり、新会社を登記したんですね。具体的に何かをやるというのは決めてはいなかったんですが、いつでも何かをはじめられるように先に箱だけ作ってしまった。それが2017年5月に設立したnoco株式会社です。

この時点で、創業した会社を私はふたつ持っていたんですが、当時の心境を振り返ると生まれてはじめて起業して、作った「formrun」という事業を最後まで自分が育てきれなかったことに対する自分への苛立ちや怒りにも似た衝動が突き動かしたのかなぁと思います。それにしても起業して翌年に新たに起業して2社が手元にあるのですから、実にカオスですよね(笑)

ご縁があって2017年12月に「formrun」はmixtape合同会社ごと売却しました。私は売却先の事業会社で執行役員や社長室長を任せて頂いたんですが、ひとつの転機だったのがその会社での広報部門の立ち上げですね。実は過去にも複数社のスタートアップで広報部門の立ち上げは経験してきたので、そこに何の躊躇も憂いもなかったのですが、人事で新卒採用担当の女性がアサインされて、広報・PRパーソンとして育てることに。

知識も知見もバックグラウンドもまったくない、プレスリリースはPRTimesを使って配信するんですよねという感覚で、プレスリリースは事業部の担当者にそれぞれライティングしてもらい、配信まで任せていました。この状況を見た時に、そもそも広報・PRの業務から役割、期待値がアサインされた人はもとより、経営陣も理解していなかった。

もしかすると自分が当たり前のように実務を通じて行ってきたPR・広報活動が、実は当たり前ではなく正しく役割として理解されていないのではないだろうか、という仮説に至ったんですね。

この時期にDeNAを離れて起業した同僚から「PRってどうやったらいいんですか」とか「広報って必要なんでしょうか」という相談が次々と舞い込んできたんです。そして彼らのもとに向かうと、元々営業でしたとか元々人事でしたという広報未経験の方が広報業務をアサインされている。そんな彼らに傾聴してみると、広報の役割を期待されてアサインされたものの、どのように進めてよいのかわからない、そのうえ社内に相談できたり壁打ちできる相手がいないので、日々の広報活動が本当に正しいのか、ワークしているのかもわからない、と。

PR・広報ってこんなに霧がかった業務として捉えられているのかと感じたのと同時に、課題を解決するためには、PR・広報のナレッジを伴走しながら伝える必要があるなと感じたんです。

エピソード⑧~PR Studioの誕生~

https://www.prstudio.io/

PR代理店さんをはじめPRエージェントの多くが、PR業務代行を丸受けすることで企業のPR・広報業務を巻き取ってくれるわけですが、どうしてもそれなりのコストがかかってしまう。また、自社にメディアさんとの信頼関係、メディアリレーションをはじめPR・広報に関するアセットが手元に残るものが限られてしまう。持続可能的に企業にPR・広報が機能するにはインハウスでその機能を持ち、自走できるのがベスト。

そこで、SlackやHangoutなどのオンラインツールを活用して、企業の広報担当者が悩んだり課題に直面した時にいつでもどこでも相談・連絡できるサービスを提供することにしました。それがオンラインPR・広報顧問サービスの「PR Studio」です。

PR戦略の設計からプレスリリースの企画や校閲、メディア選定からメディア掲載時のKPI管理まで幅広く対応しています。どうしても従来のコンサルティングサービスだと、決まった時間と場所でミーティングを定期的にしなければならなかったりと拘束されることが多いのですが、オンラインの特性上、時間と場所を問わずに相談できる点やチャットツールという特性上、どんな些細なことでも相談できるというカジュアルさもあり、おかげさまで今やスタートアップをはじめ上場企業さんにも活用いただいてます。特に最近は広報未経験者というよりも、ひとり広報担当者の方のパートナーやアシスタントとして活用されることも多いですね。

エピソード⑨~次なる挑戦は、マニュアル&プロセス管理ツール「toaster(トースター)」~

「PR Studio」のプロジェクトとは別に、「formrun」以来となる新しいSssS、マニュアルをかんたんに作成共有できる「toaster(トースター)」というクラウドサービスを開発しています。

分断化された業務をつなげたり、自動化を推進するためのRPAが注目されるなか、その起点となる業務マニュアルや手順書、取扱説明書、ワークフローが紙やファイル形式で分散されていて、組織のなかで欲しい情報が見つからない、探せないという課題や、見つかったものの更新されたマニュアルかどうかもわからない、誰が作ったのかもわからない、質問やフィードバックをしたくても誰にすべきかわからないなど、マニュアルを作成する時の課題・活用する時の課題がいまだに解決されていない。

その結果、優秀なチームの仲間がその能力や熱量を活かせずに「できない」「わからない」が生まれてしまっている。ひとりでも多くのチームの仲間が「わかる」「できる」状態にしてあげたい。これが新しいサービスを創る原動力となりました。

「toaster」は名前の通り、インスタントでかんたん・毎日つかえるものから想起してネーミングしました。「toaster」を通じて、チームの誰もがかんたんに業務マニュアルや操作手順書を作成・共有でき、コミュニケーション機能やタスク機能により「使える・実践できる」環境を提供し、チームメンバーの即戦力化やチームの生産性向上を実現したいと考えています。

エピローグ~ねだるな勝ち取れ さすれば与えられん~

こうして私のキャリアを振り返ると、セールスの経験からはじまり、マーケティングやPR、起業、事業&プロダクト開発に至るのですが、環境や状況に応じてというより、その時々で自分自身がどうしたいのか、どうなりたいのか、それを選択するためには、それを成すためにはどのようなスキルや経験を身に着けておくべきかを選択し続けていたように思います。

他人から見たら、それが嘲笑の対象だったり、何の脈絡もない行き当たりばったりの選択や失敗のように映るのかもしれません。ただ、他人の評価を恐れて自分自身の可能性をあきらめたり、挑戦することはやめないで欲しいと思います。失敗は挑戦した結果だからこそ手に入れられる経験。あたらしいことに対する挑戦や機会を乗り越えたり、失敗でさえもが成長につながり、自身のポートフォリオをより豊かにします。

では、成長につながる機会とは何か。Hard thingsなタスクや未経験のプロジェクトなど、成功確率が極めて低いものをやりきること、乗り越えることです。もし、そのような機会やチャンスを誰からも与えられないとか、評価されていないと感じるなら、それは上長や同僚をはじめ周囲から十分な信頼を得られていないのかもしれません。

まずは、小さなことでもいいので何かをやりきること、続けること、結果を出すこと、信頼を得ることに集中しましょう。機会とは誰にも等しく与えられるものではなく、勝ち取るものなんですね。

また、何かやらされていると感じている業務があるなら、考え方そのものや解釈、捉え方を変えてみてはどうでしょう。あなたがアサインされたからこそ、アイデンティティを発揮して付加価値をつけてみる、業務のスループットを高めて効率を改善する、もしくは全く異なる代替アプローチで業務そのものの質を変えてしまうなど。

気持ちやマインドの持ち方やアプローチ次第で、陳腐化のように思えたルーティンワークが、あなたの成長と強さに転化する糧になるのではないでしょうか。

果たしたいこと、実現したいことがあるなら、そこにたどり着く道は決してひとつではないはず。自分のキャリアというホワイトキャンバスに、自分だけの想いと彩りを思いっきり描いてみてください。道がなければ道をつくり、橋さえ架けることができる。想いがあれば行動につながり、行動できれば、人はどこへでも行けるんです。

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編集後記

取材担当橋本

堀辺さんの話てくださった内容が、今でも僕の人生の羅針盤となっています。キャリアに悩む人にもぜひ読んでほしい内容です。

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投稿者プロフィール

橋本 雅弘
橋本 雅弘
大学では社会福祉学を専攻。現在はStartupTimesのほか、日本最大級のAIメディア「AINOW」でも執筆。学生スタートアップ特化型アクセラレータープログラム「GAKUcelerator」でメンターを勤める。

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