「核酸医薬」をご存知だろうか?
人間の遺伝子のはたらきに直接作用する新しいタイプの薬で、これまで治療法のなかった難病に対する切り札として注目を集めている。
しかし、核酸医薬の開発には難しさもある。
その課題のひとつにAIの言語処理能力を使って挑戦しているのが株式会社レトリバだ。どんな会社なのか、詳しく見ていこう。
CEO
河原一哉
2001年、電気通信大学電気通信学部電子情報学科卒業。大手IT企業2社で経験を積み、2010年(株)Preferred Infrastructure入社。プリセールスエンジニア、サポートサービス部部長、製品事業部事業部長などを歴任した後、2016年に(株)レトリバをスピンアウトさせた。課題解決のために何をするべきか、技術一辺倒ではない、真の「顧客想い」のプロダクト開発を信条としている。その眼差しは、常に“お客様の未来”に向けられている。
――株式会社レトリバのサービスを教えてください。
株式会社レトリバでは、AIで自然言語処理を行っています。わかりやすくいうと、人間の言葉を機械に処理させるわけです。
この機能を使って、大規模なコールセンター向けに、回答支援・アフターコールワークの支援をする「Talk Coordinator」を開発しました。
Talk Coordinatorは、通話“中”の回答支援から通話“後”の後処理支援まで、エンド・トゥ・エンドでコミュニケーションを支援します。
この機能は応用範囲が広く、社内文書の分類や問い合わせ理由の分類を自動化できるんです。AIの自然言語処理能力を使って、様々な支援をしていますね。
最近は、バイオ領域に力を入れています。
――バイオ領域ではどんなサービスを提供しているのですか?
「核酸医薬」の分野にサービスを提供しています。
核酸医薬とは、人間の遺伝子が読み取られてできるRNAに直接働きかける新しいタイプの薬のこと。今まで治療が困難だった病気に対して効果のある薬を作れる可能性があり、高い期待が寄せられています。
このように高い可能性を秘めた核酸医薬なのですが、従来の薬と同様、副作用のリスクがまったくないわけではありません。核酸医薬はRNAの特定の塩基配列に働きかけるので、よく似た塩基配列があると誤って無関係なところにも作用してしまい、副作用が起こる可能性があるのです。
レトリバでは、「よく似た塩基配列」を探す、という部分に自然言語処理技術を応用できると考え、遺伝子のあいまい検索を実現するための強力なエンジンを開発してきました。
この遺伝子のあいまい検索エンジンは、ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)の提供する塩基配列検索サービス「GGGenome(ゲゲゲノム)」のバックエンドとして使われ、現在も同センターと協力しながらエンジンの改良を重ねています。
――ユーザーについて教えてください
GGGenomeのユーザーは多岐にわたりますが、核酸医薬の分野では製薬企業や大学等の研究者がすでにご利用になっています。また、医薬品の承認審査を行う規制当局でも利用されていると聞いています。
核酸医薬以外にも幅広く応用できます。たとえば、最近注目されているゲノム編集でも「よく似た塩基配列」を探すことは重要です。GGGenomeは、ヒトだけでなく家畜や作物などさまざまな生物にも使えるようになっていて、育種など農業方面にも活用されているんです。
――競合について教えてください。
BLASTという、塩基配列やアミノ酸配列の検索ソフトウェアがあります。BLASTは歴史のある有名なツールですが、検索が遅かったり、短い配列を検索すると漏れが出るという課題がある。遅いのは我慢できますが、漏れがあるのは致命的です。
核酸医薬の分野では、より確実な漏れのない国産の検索ツールが必要とされています。しかし国内には、バイオインフォマティクスに取り組んでいる企業はまだ少ないのが現状です。
情報とバイオを掛け合わせた領域なので、どちらもわかるという人はとても少ないんです。
――経緯について教えてください。
大学では、コンピューターサイエンスを学んでいました。新卒ではサン・マイクロシステムズ株式会社に入社。その後、株式会社 Preferred Infrastructureに移り、ゲノムや遺伝子の検索の事業を担当しました。
遺伝子の配列情報を含む膨大なデータの検索・検証を実施。遺伝子の配列は意味の切れ目がわかりづらく、普通のテキストとは違った技術が求められました。そのため、AIや自然言語処理のさまざまな技術を駆使して遺伝子の検索に最適な仕組みを構築する必要があったんです。
しかし、その事業の継続が諸事情により難しくなってしまいました。我々が提供していた技術には自信がありましたし、既存のお客様を大事にしたいという思いがあって、自然言語の事業を畳みたくはなかった。
そこで、株式会社 Preferred Infrastructureからスピンアウトし、独立しました。それが今まで続いている、株式会社レトリバです。
――「GGGenome」は今後どんな進化をしていきますか?
核酸医薬はこれまで治療法のなかった難病を劇的に治せる可能性をもった薬として期待されています。しかし、副作用のリスクを適切に評価したり、リスクの低い新薬を探し出すための手法がまだ手探り状態なんです。その課題を解決し、安全で効果の高い核酸医薬の創出を手助けしたいと思っています。
また、微生物からヒトまで、遺伝子が読まれて情報がそこにあるならば、GGGenomeの技術は応用できます。核酸医薬やゲノム編集のような新しいバイオ領域に我々の情報技術を掛け合わせて、医療や農業にも大きく貢献していきたいですね。
――今後の展望を教えてください。
AIは研究開発に注力しているところが多い現状にあります。私たちは、人の役に立つAIを作りたい。自然言語処理能力を利用して、お客様の課題を解決したいと思っています。
コールセンター向けのサービスであるTalk Coordinatorも、AIの自然言語処理能力が人の役に立つと思って開発しました。使えるAIを作って、コールセンター労働人口減っている・単価が高いなどの問題を解決したかったんです。
このように、今後もAIの文脈で役に立てそうな事業に参画していきたいと思っています。
取材担当橋本
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