動画広告の分析には課題が多い。従来のアンケート調査による動画広告の評価には、モニター本人が自覚していない感情は回答に反映されない、質問の仕方によってはバイアスが掛かる、などの問題がある。
近年では、Googleアナリティクスなどのアクセス解析ツールを使って、ユーザー情報や視聴完了率などの数値からネット上での動画広告の効果を分析することもできるが、それでは視聴者が動画のどのような要素に注目し、何を感じたのかは分からない。
そういった広告効果が不透明な問題、不透明がゆえにクリエイター個人のスキルや経験に頼るしかなく、高い広告効果を再現できない問題に、「脳波」というアプローチで切り込んでいく企業がある。
菊地 秋人
大学在籍中にプロゲーマーとして活躍。アジア大会準優勝、世界大会出場を成し遂げる。東京ゲームショウにて試合解説者としても登壇。その後、自身の原体験から、脳関連のコミュニティ「VR Alliance」を立ち上げ、200名ほどが所属。計算論的神経科学/認知科学領域の研究者と共同研究を経て、株式会社SandBoxを創業。脳とインターネットを接続させ新しい生き方を創り出すことを目指し、脳波を活用したサービスを展開する。
――株式会社SandBoxのサービスについて教えてください。
弊社は、動画を制作する企業に対して脳波を用いた分析サービスを提供しています。具体的には、まずユーザーから分析したい広告動画をお送りいただきます。
その後、広告を出す媒体や想定する視聴者層などをヒアリングし、想定する視聴者層と同じ層のモニターに協力依頼をしていきます。
モニターの動画視聴中の脳波、アンケート、動画自体の注目度マップ等を総合して、動画視聴中のモニターの感情(快,不快,購買意欲,注目,退屈など)の動きや、動画視聴によって商品や会社の印象がどの程度変化したか、などを分析します。
分析結果はレポートの形でユーザーにお返しします。
――どんなレポートになっているのですか?
弊社のレポートにはユーザーが動画広告を改善できるように具体的な改善案が盛り込まれています。
脳波は1秒よりも短い時間幅で脳状態の変化をとらえることができるので、適切に解析を行うことで、動画のどのポイントでどのような感性変化が起きたのかを高い精度で発見できます。
そのような感情変化の時系列情報とアンケートによる主観的な体験情報、さらには動画自体がどれほど人間の注意を引き起こせるかなどの情報を総合して、動画の良し悪しを判断し、改善すべきポイントとその方向性をご提案し、成果に繋がるよう包括的にサポートしていきます。
分析結果
――脳波はどのように計測するのですか?
脳波は電極がついている脳波計という装置を頭にかぶって計測をします。
弊社では14個の電極があるヘッドセット型の脳波計を使って脳波を計測し、得られたデータを統計や機械学習モデルを用いて解析しています。
計測や解析は研究機関で経験を積んだメンバーが担当しており、国際条約や国内学会のガイドラインに則って行っているため、モニターの負担を最小限に留めています。
――ユーザーについて教えてください。
動画制作会社だけでなく、広告代理店や広告主でもご利用いただけます。
弊社サービスは、TVCMやTwitterなどのSNSを含む幅広い媒体に出稿する動画広告に対応しています。
サービスの使い方の一例としては、完成した動画をさらに改善するための分析だけでなく、出稿前動画の複数あるバリエーションのなかから最適なものを見つけることも出来ます。
代理店では営業やコンペティションでの自社提案に脳波データも加えることでより客観的にエビデンスを持たせていくような使い方もできます。
――競合について教えてください。
リサーチ関連会社が脳波をテレビCMの分析のソリューションのひとつとして始めてきていますが、まだまだ取り組んでいる企業は少ないです。
弊社も業界自体を盛り上げていこうと色々と計画しています。
――強みについて教えてください。
弊社の強みは、まず従来の脳計測サービスに比べて調査にかかる時間を短縮し費用も抑えた点です。
従来の脳波計測サービスでは、プロジェクト毎に仕様を作りコンサルティングを行っていました。
その結果、結果が出るまでの期間が長く費用も高額なのが大きな問題でした。
弊社では、動画に特化し測定フローの共通化と自動化を推し進めてきました。結果、人が介在する箇所を減らすことができ、大幅な時間短縮と費用削減が実現できました。
――他に強みはありますか?
また、先行研究や事例を参考にしつつ、統計や機械学習を用いた新しいモデルを開発しています。
従来の周波数のみに注目するモデルよりも、より多くの脳情報を引き出せる可能性が高く、感情、注意、飽き、さらには記憶などの認知処理を従来よりも高精度に解析できるようになると期待しています。
――起業したきっかけについて教えてください。
起業のきっかけは中学時代の体験までさかのぼります。私は地元の非常に荒れた学校に通っていました。いじめなども多く楽しい生活はなかなか送れませんでした。ただ、当時の自分は見えている世界が狭く、抜け出そうとする選択肢すら無かったのを覚えています。
そんなとき、先輩からの誘いでオンラインゲームの世界を知りました。
15歳ほどの自分が全く知らない30代〜40代の人たちの中でコミュニケーションを取るという、とても新鮮な体験をしました。ここで自分の居場所を作ることができました。
そこからさらにのめり込んでいき、人生=ゲームの生活でした。本気でプレイし続けていたので、あるゲームではアジア大会準優勝を成し遂げ、世界大会にも出場しました。プロゲーマーとして活動するようになってからは東京ゲームショウで解説者として登壇も果たしました。
そんな経験を経て、世界や居場所というものが人間の幸せを作るのだと実感しました。しかし、現状では現実世界というひとつの箱でみんなが生きています。私もそうでしたが、ひとつしかないが故に、何か困難があっても無理やり適応するしかない。そうして無理を重ねた結果、精神を病んでしまうこともあるでしょう。
だからこそ、私は後天的に人が生きる世界を選べる社会にしたいと考えています。
まるでSFのような話ですが、脳とインターネットが直接やり取りできるようになれば、究極のVR世界が訪れることになります。無理せず、好きな人たちと好きなように仕事や娯楽、時間を過ごせるようになります。
私だけでなく、世界中で同じ志を持った仲間が実現に向けて努力しているので、これから20年ほどで訪れるだろうと思っています。
現状ではまだ技術的にも社会的にも課題が山積しています。脳とインターネットをつなぐ第一歩として、弊社は脳波の事業応用に着手し、解析結果を社会に還元しつつ収益をあげることで脳研究に投資し、業界自体を盛り上げていくアプローチをしています。
――プロダクトの展望について教えてください。
弊社のプロダクトが今後動画広告の分野で「良い動画広告とは何か」を客観的に示せていければと思います。
技術的なアプローチで創業しましたが、どのようなビジネス上の課題を解決すべきかはは常に念頭に置いています。
その結果として、動画広告分野と脳波の親和性を発見し、そのニーズに切り込んでいます。現在の動画広告は効果計測が難しいと言われています。
動画を見た人の評価の要因や、脳波から得られた感性の変化を示すことで、動画評価の透明性をあげていくことで、各社の広告事業の効率性・確実性を向上できると考えています。
――動画広告の事業を展開していくんですね!
動画広告を最初の入り口としています。しかし、脳波を分析するだけでは単なる分析ツールになってしまい、限定的な利用になってしまいます。
脳波と視覚情報、ユーザー属性などの周辺データを組み合わせてデータベース化していき、各企業が設定するKPIとの関連性を明らかにすることで、感性分析エンジンを作りたいです。
脳波から取得した人間の感性データが、企業の戦略や経営を大きく左右する世界になるでしょう。
脳波で社会課題の解決へ。壮大な未来を株式会社SandBoxは描けるか。今後の活躍に期待だ。
取材担当橋本
AIアクセラレーター、募集中。メンタリングを受けた人の感想はこちらやこちら。
30分で取材
掲載無料
原稿確認OK