タイムリミットは2030年。世界の人口は増加を続け、動物性タンパク質の需要に対する供給が追いつかなくなる状況が迫っている。従来の畜産は環境負荷が大きい。効率的にタンパク質が摂れて、環境にも優しい食材を見つけることは現代社会が抱える課題だ。
この問題を解決するべく、画期的な商品を開発している徳島大学発のベンチャー企業がある。
株式会社グリラス(Gryllus Inc)だ。この会社が提供する「食用コオロギパウダー」は、国内で生産・管理されたコオロギをパウダーに加工したものであり、タンパク質やビタミン、ミネラルなどを効率良く摂ることができる。株式会社良品計画とのコラボ商品「コオロギせんべい」の原材料にも用いられており、昆虫食のイメージを覆す食べやすさが特徴だ。
長年コオロギを研究してきた徳島大学は、近い将来にやってくる「タンパク質クライシス」を前に、昆虫食を新たなタンパク源として社会に普及させるために同社を立ち上げた。コオロギの可能性を最大限に引き出した商品の提供を通じて、食料問題や環境問題の解決を目指すそうだ。
株式会社グリラスとはどんな会社なのか。詳しく見ていこう。
株式会社グリラス
柿内将也
ーー株式会社グリラスは一言でいうとどんな会社ですか?
世界の食料問題を昆虫科学で解決し、持続可能な社会を目指す徳島大学発のベンチャー企業です。
食用コオロギの研究開発や、食用コオロギパウダーの生産、販売をしています。コオロギパウダーは、株式会社良品計画とのコラボ商品「コオロギせんべい」の原料に採用されています。
ーーなぜコオロギなのですか?
2013年に国連が発表した資料によると、今後世界的に人口が増加し、それに伴って動物性タンパク質の需要も増加するとされています。
しかし、今までの畜産を維持、拡大することは環境への負荷が伴います。飼育に大量の水が必要になったり、牛は二酸化炭素よりも環境に悪いメタンガスを排出したりするからです。飼料を作る敷地も限られています。
実際、増え続ける動物性タンパク質の需要に畜産だけで応えることは難しく、2030年ごろには動物性タンパク質の需要と供給のバランスが崩れる「タンパク質クライシス」が起こると言われています。
そこで、タンパク質クライシスを乗り越える解決策として我々が提案するのが、コオロギです。食用コオロギの生産は、畜産に比べ環境への負荷が極めて少なく、新たな動物性タンパク源になり得ます。
ーーどんな場面での活用を考えていますか。
まずは、お菓子、主食、お肉の代わりになるメインディッシュなどの、食品への活用です。パウダーなので、練り込めば色々なものに展開できます。徳島大学での研究を生かして、コオロギ食品の機能性を実証し、サプリメントなどの機能性食品の開発もしていく予定です。
また、コオロギの殻から抽出された成分は化粧品の原料にもなるほか、糞は肥料にして大地に還元できます。コオロギのすべてを活用していきたいです。
ーー食用コオロギパウダーのメリットを教えてください。
まずはじめに挙げられるのが、タンパク質を効率良く摂取できることです。タンパク質は、筋肉や皮膚、髪の毛などを作る大事な栄養素ですが、日々の生活の中でバランス良く摂取することは難しいですよね。
コオロギパウダーの6割から7割はタンパク質でできており、残り2割は油分でありその中には不飽和脂肪酸という身体にいい脂分が含まれています。ビタミンやミネラル、食物繊維も多く含んでいて、腸や便通にもいい、栄養素のバランスのとれた食品になっています。
ーーコオロギパウダーを購入する客層にはどんな方が多いですか?
3つのタイプがあると思います。1つ目は、新しいものに興味があり、好奇心からトライされる方。2つ目は、環境に対する意識が高く、他の商品よりもコオロギを選んで購入していただいている方。3つ目は、パウダーの美味しさなどを理由にリピートしていただく方です。
ーー従来の畜産物に変わるタンパク源として、代替肉や培養肉なども注目されていますが、それらとの違いはありますか?
前提として、我々はお肉を代替しようとはしていません。コオロギパウダーについては、動物性タンパク質の新たな選択肢として考えていただければと思います。消費者の方々にはこれまでのようにお肉も食べていただきながら、人口増加に伴う不足分をコオロギに変えていき、共存共栄できればと考えています。
ーーコオロギパウダーを作る上で工夫されていることを教えてください。
まずは、美味しさにこだわっています。パウダーの風味はエビに近いです。また、パウダーの色が黒のままだと食品としてあまりいいイメージが持たれず、何かに練り込むにも使い勝手が悪いので、白いコオロギを開発しようとしています。
甲殻類に含まれるアレルゲンも除去する研究も進めています。
ーー衛生面に関して何か工夫されていることはありますか?
弊社のコオロギパウダーは国内で生産されていて、安心安全です。原料となる白眼のフタホシコオロギは、他の黒眼のコオロギが混ざると遺伝的に弱く淘汰されるので、すぐに識別可能です。
屋外から害虫が入らないように、入ってもすぐわかる防虫防鼠を徹底していたり、もちろん異物が入らないようにもしています。この厳しい管理体制だからこそ、良品計画さんにも受け入れられたのだと思います。
そもそもコオロギは現状、食品工場で害虫扱いされてしまう存在でもあります。しっかり管理して生産している安全なコオロギだということを証明していきたいです。
ーー国産にこだわる理由は他にありますか?
アジアで作られたものを輸入するのではなく、我々自身が国内で生産し、管理しているので、トレーサビリティという意味でも安心安全だと言い切れるからです。
国内で生産しているもう1つの理由は、環境意識です。人口とともにタンパク質に対する需要が増えつつある東南アジアから、わざわざ二酸化炭素を排出しながら食料を日本に運び、食べるのには、違和感があるんですよね。
コオロギは雑食で、廃棄された食品を餌にして飼育することもできます。日本のフードロスを減らしながらコオロギを育成し、それを美味しく加工して、新たなタンパク質になるフードサイクルを作りたいと思っています。また、国内で大量生産して生産コストを抑え、価格の安さも武器にしていきたいです。
ーーなぜこのサービスを始めようとしたのですか?
もともと徳島大学では、長年に渡りコオロギの研究をしていて、弊社の代表は徳島大学の助教をしています。先ほど述べた国連の発表をきっかけに、研究結果を活かして社会に貢献していきたいと思うようになりました。
昆虫食に対して社会の注目が高まり始めた頃に、我々が旗振り役を担って先導していかないとこの動きは大きくならないのをひしひしと感じ、創業に至ったのです。
創業時から良品計画さんとコラボ商品を作ることになっていたのですが、何しろ前例がなく新しい領域だったので、高度な品質基準を設け、それに見合う生産体制を維持することが難しかったです。
ーー株式会社グリラスの今後は?
ありがたいことに、今はコオロギせんべいの需要に対する供給が追いついていない状況なので、目下は生産量を上げてしっかり需要にお答えしていきたいです。
また、自社商品として、我々のサイトを通じて販売することにも力を入れていきたいです。現在販売している商品には備蓄用のパンの缶詰がありますが、後々リニューアルする予定です。新しい商品も同時に開発しています。色々な形で食品のラインナップを増やしていきます。
昆虫やコオロギだから買うのではなく、美味しさを理由に買ってもらえるようになればいいなと思います。原料がコオロギであることは軽く流されるくらいの存在感になることが我々の目指すところですね。コオロギを昆虫ではなく1つのタンパク源として、ブランディングしていきたいと思っています。
ーーコオロギ食を普及するために何か行なっていることはありますか?
弊社の新たな生産拠点である徳島の廃校になった小学校校舎を使って、普及活動の一環として「コオロギ部」を立ち上げました。
環境のことを知るための図書室や、新しいコオロギのレシピを開発する家庭科室などを作り、コオロギ食好きのコミュニティを広げていく予定です。部員の皆さんには自社商品ができたときにフィードバックをいただくなどして、商品開発にも関わっていただく予定です。
今は4月からの入学(活動開始)に向けて部員を募集中です。10代から70代まで、年齢も住んでいる場所もさまざまな方にご参加いただいています。始まったばかりのコオロギ食をみなさんとともに作っていきたいと思っています。
ーー目指す世界観を教えてください。
コオロギは人間よりもはるか昔から地球上に存在していて、今も生き残っています。コウロギは生態のピラミッドの中で底辺に近いところにいますが、それゆえに食物連鎖のバランス維持に貢献してきたと言えます。
大学発ベンチャーである我々の強みの研究領域と、コオロギが持つ可能性を掛け合わせることで、今ある食料課題や環境課題を解決していきたいです。みんなが幸せになる暮らしを実現できたらなと思います。
株式会社グリラスが気になった方は、以下のリンクまで。
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