moom(ムーム)とheart(ハート)は、veernca(ヴィアンカ合同会社)が視覚障害があるメンバーとの対話を通じて開発した、潜在的な価値を発見し、それを顕在化するサービスだ。
私達は日々覚えておくべき情報をメモに書き取り、保存する。しかし、そのメモを見返すこともなくただ情報を忘れていってしまうことが多い。「moom」を使えば、まるで部屋にモノを片付けるように仮想のメモ空間に情報を自動的に配置してくれるので、必要な情報を必要な時に思い出すことができる。
SNSではどうだろう。一般的にフォロワーは、相手が見せたい画像や動画をスライドし、なんとなく眺めるだけで時間が経ってしまうことが多い。「音の写真」を共有するアプリ「heart」では、従来のSNSとは異なり、相手がいる場所や気持ちを想像しながらSNSを楽しむことができる。
どんなサービスなのか。veerncaの阿部菜々子さん、佐藤優介さん、三冨敬太さんにお話を伺った。
(左から) 阿部菜々子 佐藤優介 三冨敬太
ーー「moom」・「heart」をそれぞれ一言で言うと?
「moom」は、音と位置で情報を管理して記憶するアプリです。「heart」は想像力を掻き立てる日常の投稿共有SNSです。
ーー2つのサービスに共通することはありますか?
障害のある人とない人がワンチームでつくっている点です。「Blind Power」というコンセプトで、障害者の悩みを解決するものではなく、視覚障害があるからこその強みを活かしたサービスをつくりました。
ーーユーザーの使い方を教えてください。
moomは、その時の天気や気持ち・場所を入力すると、まるで部屋にモノを配置する感覚で情報を仮想の「メモ空間」に自動的に配置することができます。私達は普段、膨大な情報をメモに書いて保存しますが、それらを見返す機会はなく、結局忘れてしまうことが多いと思います。それに対してmoomでは、スマホ一つでポジションごとに情報が整理されるため、感覚的に多くの情報を記憶できます。
heartは、相手に共有したい景色や気持ちを表す音を投稿していただきます。まさに「音の写真」のようなものです。フォロワーは、投稿された音を聴いて相手の気持ちを想像したり、「どういう景色を見ているのかな」と想像することができます。「いいね」とアクションしていただくと、それにちなんだサウンドが付け加えられるんです。「いいね」が増えるたびにサウンドが付け加えられていき、素敵な音楽を奏でます。
ーーユーザーが得られるメリットを教えてください。
moomは情報を忘れにくく、かつ頭に残る点がメリットです。たとえば、部屋を片付ける時、モノを配置した場所は覚えていることが多いですよね。moomも部屋にモノを片付けるように情報を整理できるので、長期的にあらゆる情報を記憶しておけます。
heartの強みは相手の見ている景色を想像しあえる、優しい気持ちで使っていただける点です。一般的なSNSは、相手が見せたい姿や日常をフォロワーが閲覧する形がほとんどですよね。heartでは、投稿される音を通じて「相手が今どこにいて、何をしているのか」といったように相手を想像をしながら楽しめるSNSになっています。
ーー御社を立ち上げた経緯を教えてください。
大学院の授業で開催したワークショップがもとになっています。私達3人が慶應義塾大学大学院システムデザインマネジメント研究科の学生だった時、ワークショップをデザインする授業がありました。そこで私達は、視覚障害のある方と晴眼者の方が対話することでお互いを深く知っていくというワークショップをデザインしました。ワークショプの開催後、参加者の方々が障害の有無に関係なく仲良くコミュニケーションを取り合っている姿を見て、ワークショップの成功を実感したんです。これを機に法人化し、企業向けのサービスとして始めました。
ーー自身で企画したワークショップが企業向けのサービス開始に繋がったんですね。
それでは、今回の新たな開発に至った経緯は何ですか?
研修サービスの経験から、障害の有無に関係なく対話して新しいモノを作っていくというプロセス自体に価値があることに気づいたことがきっかけです。そこで、独自のプロセス「Valuable Design(バリュアブルデザイン) Process」を通してサービスを開発しようと考えました。
ーーValuable Design とはどのようなものですか?
障害の有無を超えて、共創型の対話を通じて潜在的な価値を顕在化し、新しい価値を作るデザインです。このデザインを実施する過程をまとめたものが、Valuable Design Processとなります。信頼関係の構築・潜在的価値の発見・価値の顕在化・価値の提示の4つの要素から構成されています。このプロセスは、障害の有無に関わらずひとつのチームとしてワークショップやソリューションデザインをしてきた弊社だからこそ体系化できたと感じています。
ーー実際にValuable Design Process に沿って作られたサービスが「moom」と「heart 」なのですね!
はい。1段階目の「信頼関係の構築」として、視覚障害のあるメンバー・ないメンバーで「情報の扱い方」「SNSの用い方」をベースに対話を重ねました。そして、2段階目の「潜在的価値の発見」として、「視覚障害者の方が何かを覚える時、頭の中に情報の部屋を作る」という方法と、「音からあらゆることを想像する」という方法の2つを発見しました。そして、3段階目の「価値の顕在化」として、前者の方法をもとに、ユーザーの周りに仮想のメモ空間を作ることで情報を管理するツール「moom」を開発。後者の方法を、景色や日常を耳で想像するSNS「heart」として開発しました。最後の「価値の提示」として、世界最大のテクノロジーとカルチャーの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)に出展しました。「moom」を例に結果の一部をご紹介すると、アンケート回答者のうち52.4%が「新規性を感じる」、42.9%が「非常に新規性を感じる」と答え、90%以上の方から新規性を感じるという回答を得ました。また、自由回答でも「イノベーティブでユニーク」、「非常に面白いコンセプトで、他のアクセスニーズを持つ人々にとっても価値がある」、「視覚障害者を支援するだけでなく、視覚障害者以外の人にもアクセスして役立つことができるのが良い」などの回答を得ることができました。このアンケート評価と自由回答から、視覚障害がある方の持つ潜在的な価値をもとにコンセプトをデザインすることで、視覚障害のある方が持つ問題を解決することだけにとどまらず、さまざまな人々が利用することができる新規性の高いコンセプトがデザインできる可能性を示せたと考えています。
ーー今後、サービスはどのような進化をしていきますか?
現在はコンセプト段階ということもあり、SXSWへの出展やユーザーからのフィードバックを通してより使いやすく、より多くの方に価値を広めていけるようにしていきます。
また、弊社が大切にしているValuable Design Processを生かして、障害のある方が潜在的に持っている価値を引き出していきます。最終的には、障害のある方々が働きやすい環境づくりにも貢献していきたいです。
ーー目指している世界観を教えてください。
「ちがう」という価値でチームを強くするということです。弊社は、障害の有無に関係なく、それぞれの個性を持ったすべての人が活躍できない「社会」の方に障害があるのではないかと捉えています。どんな人も自分らしく働けるように、弊社のアイディアで社会の障害を無くしていきたいと思います。
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